介護福祉士国家試験 過去問解説

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今回は、障害者福祉の基本理念であるノーマライゼーションに関する問題を取り上げる。
多くの国で福祉行政の基本とされている考え方で、よく出題されるので練習しておこう。


【第29回介護福祉士国家試験 2017年】

分野  :人間の尊厳と理解
出題頻度:よく出題される

問題 2

障害児・者に対して、ノーマライゼーション(normalization)の理念を実現するための方策として、最も適切なものを1つ選びなさい。 

1. 障害の原因となる疾病の完治を目指して治療すること
 
2. 障害種別ごとに、同じ職業に就くことができるように訓練すること
 
3.  障害児と障害者が一緒に施設で暮らすこと
 
4.  普通の生活環境に近づけること 

5. 障害者の経済的水準を一定にすること


ポイント

ノーマライゼーションという言葉の意味を知っているかどうかを問う問題。
高齢者や障害者が普通の人とできるだけ同じように、普通に生活できるようにすること、ないしはそのようにすべきだとする考え方のことを、ノーマライゼーションという。

ノーマル化、標準化、と覚えてもいいだろう。

大切なのは、障害者を社会から切り離すのではなく、障害をありのまま受け止め「障害者を変える」という視点ではなく「周りが変わる」「社会が変わる」ことで障害者も健常者と共に生活できるようにしていこうという点。


正解

4.  普通の生活環境に近づけること 


解説

ノーマライゼーションの育ての親と呼ばれる、スウェーデン知的障害児者連盟のベンクト・ニィリエがまとめた、ノーマライゼーションの8つの原理というものがある。


ノーマライゼーション8つの原理

① 1日のノーマルなリズム
② 1週間のノーマルなリズム
③ 1年間のノーマルなリズム
④ ライフサイクルでのノーマルな発達的経験
⑤ ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
⑥ その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障
⑦ その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利
⑧ その地域におけるノーマルな環境水準

ここでいうノーマルとは「普通の人と変わらない」と考えればいいだろう。

朝起きて、顔を洗い、着替えて、食事をする。(1日のノーマルなリズム)

普段は学校や職場に行き、週末は友人と食事をしたりレジャーを楽しむ。(1週間のノーマルなリズム)

夏に海に行ったり、連休に家族と旅行に行ったり、季節に合ったファッションを楽しんだり。(1年間のノーマルなリズム)

成長に従い体験する、友達関係や、異性との関係、仕事での体験や出会い、楽しみ。結婚、子育て、人間関係、壮年期、老年期の社会的な役割や地域とのつながりを経験する。(ライフサイクルでのノーマルな発達的経験)

こうした普通の人が体験するであろう普通の生活、普通の体験を、障害があっても経験できる社会であるべきだとノーマライゼーションは説く。

普通の人と同じ自己決定権(ノーマルな個人の尊厳と自己決定権)

普通の人と同じような幼少期からの異性同性との関係、人間として当たり前な性的欲求や興味、結婚など社会制度上の権利(その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障)

普通の人と同じような経済的援助や社会保障。それらにともなう責任(その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利)

普通の人と同じような環境で暮らし、施設や隔離された場所での生活を強制されない(その地域におけるノーマルな環境水準)

これらを実現するためには、法整備はもちろん、街で買い物ができるように車いすマークの駐車場を整備するとか、駅にエレベーターを設置するとか、建物の入り口にスロープを作るといった、インフラ整備も必要になってくる。

身近な所に、ノーマライゼーションの考えは反映されているといっていい。


ここで問題をみていく。

ノーマライゼーションの理念を実現するための方策を問うている。

選択肢1の「障害の原因となる疾病の完治を目指して治療すること」は「障害者を変える」「障害を取り除く」という視点であり「障害をありのまま受け止める」というノーマライゼーションの理念に反する。

選択肢2の「障害種別ごとに、同じ職業に就くことができるように訓練すること」も、障害者の自己決定権を奪うものであり「ノーマルな個人の尊厳と自己決定権」というノーマライゼーションの理念に反している。

選択肢3の「障害児と障害者が一緒に施設で暮らすこと」も違う。
ノーマライゼーションの理念は施設に隔離するのではなく、地域社会で普通の人とできるだけ同じように生活できる環境を整えることである。

選択肢4の「普通の生活環境に近づけること」
この選択肢がまさにノーマライゼーションの理念といっていい。
選択肢3はこれとはまったく逆のことをいっている。
「普通」=「ノーマル」というキーワードも含まれている。

選択肢5の「障害者の経済的水準を一定にすること」は、ノーマライゼーションの8つの原理にある「経済的水準」という言葉を使っているので、ややもするといいことのように聞こえるが「一定にする」ということは障害者をひとくくりにしており、個人の尊厳をないがしろにしていて、ノーマライゼーションの理念には反する。
こうした国語力、読解力を試す問題は本当に多いので、注意が必要。


まとめ

ノーマライゼーションの考えでは、高齢者や障害者であっても「普通の人と可能な限り変わらない暮らし」ができる社会を目指す。

「ノーマル」「北欧発祥」「障害をありのまま受け止める」「自己決定権」「施設から地域社会へ」などがキーワードだ。

またよく出題されるのが、ノーマライゼーションを最初に提唱した人物とその出身国。
ノーマライゼーションの8つの原理を定義した人物とその出身国を正しく選ぶという問題だ。

第二次世界大戦終了後の1950年代。

「どのような障害があろうと一般の市民と同等の生活と権利が保障されなければならない」という考え方が、当時デンマークの障害者福祉政策の行政官だった、N・E・バンク-ミケルセンによって提唱され、それをきっかけにして、この考えに基づいた法律が、デンマークで1959年に成立した。

ノーマライゼーションという言葉はこの際に生まれた。

最初は障害者施設での非人間的な扱いを改善するよう求めた親たちの運動だったそうだ。

この考えをスウェーデンベンクト・ニィリエが文章で8つの原理として定義し、アメリカで紹介したことにより、世界中に広まった。


ノーマライゼーションの生みの親 デンマーク ミケルセン

ノーマライゼーションの育ての親 スウェーデン ニィリエ



覚え方の一例として、「ノーマライゼーションはノーマル生活」「障害者は隔離されて虐待されていた」「時代は第二次世界大戦」「ナチスドイツ」「ドイツに近いデンマークが発祥」「デンマークといえばアンデルセン(童話作家)」「〇〇センはデンマーク」「次に近いスウェーデンの人が広めた」と頭の中でストーリーを作った。

日本人には外国語由来の言葉は本当に覚えづらい。

しかし介福試験ではそういう問題が多い

続きを読む でこれまで出題された「ノーマライゼーション」関係の問題を紹介しているので、そちらも参考にして欲しい。




過去に出題されたノーマライゼーション関係の問題

(解答は一番下)

介護福祉士国家試験 第24回(2012)

問題88

ノーマライゼーションに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1. 大規模入所施設を増加させた。

2. スウェーデンで初めて提唱された。

3. 昭和40年代の日本の障害者施設に強い影響を与えた。

4. 「統合教育」という意味である。

5. 障害者基本計画を支える理念の一つである。


介護福祉士国家試験 第30回(2018年)

問題88

障害福祉計画において、ノーマライゼーション(normalization)の理念に沿って設定されている成果目標として、最も適切なものを1つ選びなさい。 

1. 利用する交通機関の整備 

2.  ADLの自立 

3.  身体機能の回復による社会復帰 

4.  疾病や障害の管理 

5.  福祉施設の入所者の地域生活への移行


介護福祉士国家試験 第31回(2019)

問題87

ノーマライゼーション(normalization)の理念を 8 つの原理にまとめた人物として,正しいものを 1 つ選びなさい。

1. ニィリエ(Nirje, B.)

2. バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N.)

3. ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger, W.)

4. ロバーツ(Roberts, E.)

5. ソロモン(Solomon, B.)


介護福祉士国家試験 第32回(2020年)

問題88

「障害者差別解消法」に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。

1. 法の対象者は、身体障害者手帳を持っている人である。

2. 合理的配慮とは、全ての障害者に同じ配慮をすることである。

3. 共生社会の実現を目指している。

4. 障害者は、合理的配慮の提供に努めなければならない。

5. 障害者差別解消支援地域協議会は、民間事業者で組織される。



解答

介護福祉士国家試験 第24回 問題88 

正解 5

介護福祉士国家試験 第30回 問題88

正解 5

介護福祉士国家試験 第31回 問題87

正解 1

介護福祉士国家試験 第32回 問題88

正解 3


日本におけるノーマライゼーション

日本では国連総会が1981年に宣言した「国際障害者年」をきっかけにノーマライゼーションの考え方が意識され始めた。

1994年に病院やデパートなどの不特定かつ多数の人が利用する建物を対象とした法律「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(旧ハートビル法)が施行され、、2000年に鉄道などの交通機関を対象とした「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(旧交通バリアフリー法)が施行された。

2006年にこの2つの法律を統合したものが「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)として施行されている。

旧法の対象者は高齢者と身体障害者だったが、バリアフリー新法では身体障害者だけでなく精神や知的などすべての障害者が対象となった

また2020年のパラリンピック開催が東京に決まったことで、2018年にバリアフリー新法の一部改正が行われている。


障害者差別解消法について

2006年(平成18年)に国際連合で障害者権利条約が採択され、日本は2007年に批准。これを受けて2011年(平成23年)国内法整備の一環として障害者基本法の一部を改正。

障害者権利条約・障害者基本法に実効性を持たせるための国内法整備として2013年(平成25年)に新たに制定されたのが「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)である。

全ての人が、差別されることなく尊重し合い共生することを目的としており、ここにもノーマライゼーションの考え方が反映されている。